ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』は本当に「失敗」なのか
Yahoo!ニュースなんかを読んでいると、「大コケ」だとか「公開処刑」とか、やたらとドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』に対する酷評が目立ちますが、果たしてそんなに酷評されるほど面白くないドラマなんだろうか…?
ちなみにこの記事には多少のネタバレも含んでいるので、ネタバレが嫌な人は引き返してくださいね。
個人的には結構好き
僕はこのドラマを一話からずっと観ているが、正直、個人的にはなぜかやたらと評価されている『義母と娘のブルース』よりも好き。どっちも観てるけど。
知らなかったことを色々と知ることができたし、毎回考えさせられる。
ちょっと泣いちゃうような回もあったし、1話もしくは2話完結型で気軽に観られるところも気に入っている。
役者陣もそんなに嫌いじゃない。
主役の吉岡里帆は定期的におっぱいを揺らして走ってるし(演出家がわざとやってるとしか思えない)、阿久沢さん役の遠藤憲一、半田さん役の井浦新、課長役の田中圭、なんかは結構ハマり役で。
ところがどっこい、世間での評価は全く芳しくないらしい。(少なくともニュースになるくらいには)
視聴率は取れていない
確かに視聴率は取れていないようだ。
『健康で文化的な最低限度の生活(以下、ケンカツ)』の9/4放送分の第8話が5.6%であるのに対して、同日9/4放送の『義母と娘のブルース(以下、ギボムス)』の第8話が15.5%と、かなりの大差。
なるほど確かに商業的な意味合いでいえば、ケンカツは失敗でギボムスは成功、といえるのかもしれない。
スポンサー目線、もしくは制作サイドからみれば、視聴率をとってナンボ、という世界であることも理解できる。
では、なぜ視聴率が取れていないのか。
本当に「面白くない」からなのだろうか。
テーマは重たいし制作には制約がある
少なくとも、僕は「面白くない」とは思わないし、ケンカツとギボムスのどちらかを選べ、と言われたらおそらくケンカツを選ぶだろう、と思うぐらいには毎週楽しみにしている。
おそらく、面白いか面白くないかは単純に好みの問題なのだ。
ただ、視聴率が取れない理由もなんとなくわかる。
まず、テーマが重い。
改めてになるが、このドラマは生活保護とその受給者の実態を、主人公である吉岡里帆演じる新人ケースワーカー*1の義経えみるの目線で描く、というわざわざ疲れた平日から、毎週観たくもないようなテーマ。
仕事から帰ってきて、リラックスタイムにあえて観たい、とはならないだろう。
実際、第1話の初っ端からいきなり担当になったばかりの人が死ぬ。
重い、重すぎるよ...。
ちなみに、僕は漫画も第1巻だけ読んだけど、この部分の描写については、割と漫画ではサラッと描かれていた反面、ドラマではものすごく気合いを入れて描かれていた。
そこに気合いを入れたからこそ逆に視聴者が離れてしまったのでは...?なんて気も若干しないでもないけど、このドラマの描写も、個人的にはすごく良かったと思う。冗長というよりは、丁寧に描かれていた、といっていい。
そして、制作上、原作者から出された条件が、さらにこのドラマを「重厚な」ものにしているのではないか、とも思う。
昨秋にドラマ化の話が来ました。原作に対する熱い思いを感じたので、こちらからは①間違った情報を描かないよう監修をつけてほしい、②視聴者の偏見を助長するような表現はしないでほしい、という2点を条件にOKしました。
とあるように、原作者の柏木ハルコさんは「視聴者の偏見を助長するような表現」を避けるように、と注文をつけた。
その制約もあって、ドラマは毎エピソード、勧善懲悪的にドラマティックな感じには全くもって着地しない。
借金を背負っていた受給者は債務整理を行って借金整理してバイトを始め、報告義務を知らずに息子がバイトをしていたことにより「所得隠しによる不正受給」が発覚した受給者は結局不正受給分を返済することになり、父親から虐待を受けていた新規受給申請者は虐待から抜け出し、アル中の受給者はアル中を自覚して脱却のための自助会に通うようになり...、と、基本的には「最悪の状態から一歩前進する」ところまでしかストーリーは描かれず、なんとなくエンディングテーマが流れ出し、なんとなく毎回終わってしまう。
確かに、現実はそういうもんのはず(というか、最悪のケースから抜け出せないケースも同じくらい多いだろう)だし、基本的にはいきなり全ての問題が解決してハッピーエンドになることなんてことはあり得ない。
そんなことをしてしまえば、「視聴者の偏見を助長する」ことになってしまう。
ましてや生活保護の不正受給者を世直し的に懲らしめる、みたいな構図ももちろんない。
だからこそ、このドラマは「娯楽」ではないのである。
そして娯楽ではないドラマは、連続ドラマにするには少々難しいのかもしれない。
ただ、娯楽ではないからといってそれが「面白くない」と断じてしまうのも違う気がするのだが、どうだろうか。
吉岡里帆の演技もそんなに悪くない
主演である吉岡里帆の演技もそんなにウケがよくない。
ただ、演技、と言うことに関していえば、吉岡里帆はしっかり役柄を演じられているんじゃないかな、と個人的には思っている。
少し前に話題になったドラマ『カルテット』での癖の強い狂った女役の吉岡里帆の演技は凄まじかった。とてもハマっていて、吉岡里帆の女優としての世間での評価は急激に上がったし、吉岡里帆の「ちょっと癖のある女」を演じる演技力には、僕自身も一目置いている。
ケンカツにおいては、ドラマ内で吉岡里帆演じる主人公は「ちょっと変わっているけど普通の人」くらいの感じで描かれている。のだが、その割には、かなり空気が読めない痛い感じが出ていて、その痛い感じが「吉岡里帆、感じ悪いよね」「あの子、あんまり好きじゃない」に繋がっているような気がする。
ただ実のところ、漫画では主人公はちゃんと「空気が読めない」「人の顔色というものが全くわからない」というキャラ設定になっているのだ。
そして、おそらくしっかりと原作を読み込んだであろう吉岡里帆はしっかりと空気が読めない痛い感じで主人公を演じている。
そういった背景から、ドラマ内では「主人公は痛いやつ」という共通認識を視聴者から得られないまま進んでしまっているせいで、結果的には「吉岡里帆=痛いやつ」になってしまっている、というわけである。
これに関しても、「吉岡里帆の演技がひどい」と言うにはあまりにもかわいそうというか、一方的な決めつけであるように思えてならない。
「視聴率が悪い」を理由に全ての評価をネガティブなものにして欲しくない
結局のところ、ケンカツは「視聴率が悪い」だけのドラマなのだ。
その「視聴率が悪い」ということが、ドラマそのものの質や役者の演技力にもハロー効果*2を与えてしまっているように僕は思う。
そして「視聴率が悪い」ということをドラマの評価の全てにしてしまっては、本当に面白いドラマが今後産まれる可能性をも潰してしまうのではないか、とも思えてならない。
いちドラマのファンとしては、Yahoo!ニュースなんかに踊らされずに、まっさらな気持ちでドラマを観ることができたらなぁ、とただ願うばかりなのである。
ちなみに、いま、楽天kobo(楽天の電子書籍サービス)で、漫画版の1巻が期間限定(2018年9月13日まで)で無料となっています。
漫画版ケンカツを読んだことがない方には、是非ともこの機会に漫画も読んでほしい。
それでは、今日はこの辺で。